8杯目:ぼくらのヒーロー
正義と言う武器を胸に戦うヒーロー。
変身、地球へ降り立つ、魔法をかける。
たくさんの成り立ちがあって、子供から大人を虜にしトキメキをくれる。
そして、自分自身のヒーローはと言えばゲゲゲの鬼太郎。
言葉を発する前から鬼太郎の活躍に胸を焦がし妖怪たちは人間のすぐとなりで暮らしていると信じていた。
ちなみにお気に入りは、あかなめと豆腐小僧。
スポーツ選手やアーティスト、テレビやマンガの中もさることながら、日常にもヒーローは現れる。
素晴らしいパフォーマンスを披露する先輩。
良き方向へ導く上司。
様々。
小学6年生のぼくらの前に現れたヒーロー。
下校途中にある空き地が整備され公園になり毎日のようにバカな話をしたりサッカーをしたり、誰かが拾ったエロ本を覗きこんだり。
真っ当な成長がそこにはあった。
ある日、ドジャースのキャップを被ったおじさんが目の前を通る。
子供ながらに誰かが叫んだ。
「あ!野茂だ!」
おじさんは振り返り、軽く手を振ってくれた。
翌日。
「あ!野茂だ!」
おじさんは手に缶コーヒーを持っている。
その当時、野茂英雄選手は缶コーヒーのCMに出演していた。
そして、こう言い放った。
「野茂と飲もうよ!」
“寄せてきてる!!!”
さらに翌日。
缶コーヒーでもないお茶を持っても、「野茂と飲もうよ!」。
“味をしめてる!!!”
それからは、みんなで歌うようになった。
ひでーお ひでーお 野茂が投げれば大丈夫♪
どうやら公園のすぐ裏が自宅らしく、歌声が聞こえると外壁からひょっこり顔を出して手を振ってくれる。
それから数日、そんなコール&レスポンスが続きおじさんを見ない日があった。
「いないね。」と言いながら、おじさんの家の庭先を覗いてみた。
なんと、そこには新品のドジャースのユニフォームが干されている。
“仕上げに入ってる!!!”
その次の日。
公園に入る手前で気づいた。
おじさんはユニフォームを着てピッチングフォームを確認している。
“度が過ぎている!!!”
たった数回の投球パントマイムを繰り返した後、「あぁ、いい汗かいた。」と言い放ち立ち去った。
小学校を卒業すると、みんな部活や塾とバラバラになりあの公園を忘れてしまった。
もちろん、あのパントマイム以降、おじさんに会うこともなかった。
おじさんは野茂英雄になりきることでぼくらに笑いを与えてくれた。
新品のユニフォームまで揃え、夕暮れ時の寂しさを感じさせることなく貴重な時間をぼくらと過ごしてくれた。
ありがとう、おじさん。
顔も全然似てないけど、ユニフォームにダボダボのジーパンは不釣り合いだったけど、若干の猫背だったけど、たしかにぼくらの野茂英雄だった。
平和な日々をありがとう。
そして、あの頃から未だに残る疑問。
「おじさんの仕事はなんだったんだろう?」
ヒーローは存在そのものを象徴する言葉であり、職業ではない。
おじさん、never again。
写真は息子たちのヒーロー、ウルトラマンと怪獣コレクション。
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